デザイン思考でアイデアを『見える化』する!中小企業向けアフィニティ図(親和図)の作り方と活用法
デザイン思考を自社の製品開発やサービス改善に活用したいと考える中小企業の企画開発チームの皆様にとって、「アイデアをどう具体化し、次に繋げるか」は重要な課題の一つではないでしょうか。特に、顧客の声や市場の情報を集めても、それが漠然とした情報の山になってしまい、具体的なアクションに落とし込めないという経験があるかもしれません。
そこで今回ご紹介するのが、「アフィニティ図(親和図)」です。これは、バラバラに見える情報を整理し、本質的な課題やニーズ、アイデアのパターンを見つけ出すための強力なツールです。限られた時間、人員、予算といった中小企業の制約の中でも、非常に効果的に活用できる手法であり、明日からでも実践可能な具体的なステップと活用法を解説いたします。
アフィニティ図(親和図)とは何か
アフィニティ図は、大量のデータや意見、アイデアをグループ化し、それらの間に隠された意味や構造を「見える化」する手法です。KJ法(川喜田二郎氏が考案した発想法)の一部として知られており、混沌とした情報を整理し、問題の根源や新たな解決策の糸口を見つけることを目的とします。
デザイン思考のプロセスにおいては、特に「共感(Empathize)」フェーズで得られたユーザーの生の声や観察結果を整理する際、また「アイデア発出(Ideate)」フェーズで生まれた多様なアイデアを構造化し、深掘りする際に有効です。
なぜ中小企業にアフィニティ図が有効なのか
アフィニティ図は、特別なソフトウェアや高額なツールを必要とせず、付箋と壁、そしてチームの協力があればすぐに始められます。
- 情報の整理と共通認識の形成: 顧客からのフィードバック、市場調査データ、チーム内の意見など、多岐にわたる情報を視覚的に整理し、チーム全体で共通の理解を深めることができます。
- 本質的な課題の発見: 表面的な情報ではなく、その裏に潜む顧客の本当のニーズや課題、行動原理などを抽出するのに役立ちます。
- 効率的なアイデアの抽出: 膨大なアイデアの中から、優先度の高いものや、関連性の強いものを効率的に見つけ出し、具体的な企画に繋げやすくなります。
- リソースの有効活用: 少人数でも実施可能であり、議論が拡散しがちなブレインストーミングの後処理など、限られたリソースの中で成果を最大化する助けとなります。
中小企業のためのアフィニティ図作成ステップ
ここでは、チームでアフィニティ図を作成するための具体的な5つのステップをご紹介します。
ステップ1: 情報の洗い出しとカード化
まず、整理したい情報(顧客インタビューでの発言、アンケートの自由回答、ブレインストーミングで出たアイデアなど)を収集します。
- 具体的なアクション:
- 集めた情報を一つずつ、付箋(ポストイット)1枚につき1つの情報やアイデアを簡潔な文章で書き出します。文字数は少なく、一目で内容がわかるように記述します。
- 例:
- 「ウェブサイトが古い」
- 「予約が電話でしかできない」
- 「サービスの利用方法が分かりにくい」
- 「価格が少し高いと感じる」
- ツール: 物理的な付箋と大きな壁やホワイトボードが最も手軽です。オンラインツールとしては、Miro、Figma Jam、Google Jamboardなどが無料で利用できるプランを提供しており、リモート環境でも実施可能です。
ステップ2: カードを広げて配置
書き出した付箋を、参加者全員が見やすいように、大きな壁やホワイトボードに無作為に貼り付けていきます。
- 具体的なアクション:
- 最初は「あちこちに散らばった状態」で構いません。情報の全体像を把握することに集中します。
- スペースに余裕を持たせることで、後のグルーピング作業がしやすくなります。
ステップ3: 無言でグルーピング
ここがアフィニティ図作成の最も重要な工程です。参加者全員で、似た内容や関連性の高い付箋を「無言で」集めてグループを作っていきます。
- 具体的なアクション:
- 会話は禁止です。 各自が直感的に「これはこの情報と関連がある」と感じたものを集めていきます。
- 「これが正しいグループか」といった議論は後回しにし、まずは直感に従って手を動かしてください。
- 一つの付箋が複数のグループに関連する場合でも、まずは最も関連性が高いと感じるグループに置いてみましょう。後で移動やコピーは可能です。
- ヒント: 時間制限(例: 10分〜15分)を設けると、集中力が高まります。
ステップ4: グループの表札作り
グルーピングが完了したら、それぞれのグループが「何を意味するのか」「そのグループの本質は何か」を一言で表現する「表札(キャプション)」を作成します。
- 具体的なアクション:
- 各グループの付箋を眺め、そのグループの共通点や要約となる言葉、あるいはそこから見えてくる課題やニーズを、新しい付箋に書き出します。これが表札となります。
- 良い表札の例:
- 「顧客のデジタル情報アクセスへの不満」(→「ウェブサイトが古い」「予約が電話でしかできない」などのグループから)
- 「サービスの利用体験に関するハードル」(→「サービスの利用方法が分かりにくい」「初めての人には敷居が高い」などのグループから)
- 表札は、そのグループの内容を正確かつ簡潔に表すように心がけてください。
ステップ5: グループ間の関係性を見出す
最後に、作成した表札(グループ)同士の関係性を見出し、さらに大きなグループにまとめたり、因果関係や包含関係を線で結んだりして、全体構造を把握します。
- 具体的なアクション:
- 表札を再配置し、関連性の強いグループを近くに置きます。
- 「この問題が原因で、あの問題が発生している」といった因果関係や、「これはあのカテゴリの一部だ」といった包含関係を、線や矢印で示すことができます。
- これにより、全体的な課題構造や、どの部分に最もインパクトのある解決策を投じるべきかが見えてきます。
中小企業での実践事例(架空)
地方都市で20年以上続く老舗の家族経営のカフェ「やすらぎ珈琲」が、新規顧客の獲得と既存顧客の満足度向上を目指し、デザイン思考を導入したケースを想定します。
「やすらぎ珈琲」のオーナーは、常連客へのアンケートと、新規来店客数に対するSNSでの言及を調査しました。その結果、以下のような声が集まりました。
- 「店内の照明が少し暗い」
- 「若い人が入りにくい雰囲気」
- 「Wi-Fiがないのが不便」
- 「メニューが写真だけだと分かりにくい」
- 「テイクアウトの選択肢が少ない」
- 「SNSでの情報発信が少ない」
- 「限定メニューがよく売り切れる」
- 「隣の席との距離が近い」
- 「キャッシュレス決済が使えない」
これらの情報を付箋に書き出し、アフィニティ図を作成したところ、以下の3つの主要なグループが浮かび上がりました。
- デジタル・利便性への要望: (Wi-Fiがない、キャッシュレス決済がない、SNS情報が少ない、予約方法が不便など)
- 空間・雰囲気の改善: (照明が暗い、若い人が入りにくい、隣席が近いなど)
- メニュー・サービス多様化の期待: (テイクアウトが少ない、限定メニューが売り切れる、メニュー表示が不便など)
この構造から、「やすらぎ珈琲」は、若い層の顧客獲得と既存顧客の満足度向上には、まず「デジタル・利便性への対応」が不可欠であると結論付けました。具体的には、無料Wi-Fiの導入、キャッシュレス決済の導入、そして日替わりメニューをSNSで積極的に発信する企画を優先的に進めることを決定しました。これにより、限られた予算と人員の中で、最も効果的な打ち手に集中することができました。
成功のためのポイントとよくある課題
成功のポイント
- 目的を明確にする: 何のためにアフィニティ図を作成するのか、その目的をチーム内で共有することが重要です。
- 多様な視点を取り入れる: 異なる部署や役職のメンバーが参加することで、より多角的な情報が集まり、深い洞察が得られます。
- 「無言」の原則を守る: グルーピング中は会話をせず、直感に任せることで、先入観にとらわれずに本質的な繋がりを見つけやすくなります。
- 表札は「本質」を捉える: 表面的な表現ではなく、そのグループが本当に意味していることを掘り下げて言語化します。
よくある課題と対策
- 「情報が少なすぎる」:
- 対策: まずは手元にある情報から始め、不足していると感じたら、簡単なアンケートや数名へのヒアリングを追加で実施する。完璧を目指すよりも、小さく始めることが重要です。
- 「グループ分けに迷う」:
- 対策: 直感を信じてまずは仮で置いてみる。アフィニティ図は一度作ったら終わりではなく、後から修正したり、別の分け方を試したりすることも可能です。
- 「グルーピング中に議論になってしまう」:
- 対策: 「無言のグルーピング」のルールを徹底し、タイマーを設定して集中する時間を確保します。議論は表札を作成するフェーズ、あるいはその後の構造化フェーズでじっくり行います。
- 「結果を次に活かせない」:
- 対策: アフィニティ図の作成で終わりではなく、そこから得られた洞察をもとに、具体的な課題設定やアイデア創出、アクションプランへの落とし込みを行う時間を設けることが不可欠です。
まとめ
アフィニティ図は、一見すると複雑な情報の山を、明確なパターンや構造へと変換するシンプルながらも強力なツールです。中小企業の皆様が抱える限られたリソースという制約の中で、顧客の本質的なニーズを深く理解し、具体的な製品やサービス改善のアイデアを効率的に生み出すために、非常に有効なアプローチとなります。
この手法を実践することで、漠然とした情報がチーム共通の「見える化された地図」となり、次に何をすべきかが明確になります。ぜひ、今日の記事を参考に、貴社の企画開発チームでアフィニティ図の作成に挑戦してみてください。明日への一歩として、まずはチームで付箋と壁を用意し、身近な課題や顧客の声から情報整理を始めてみてはいかがでしょうか。